Fumio Yamamoto

友人に「推理小説のように一気に読んでしまう」と勧められたが、本当だった。日本のテレビドラマ全盛期を彷彿とさせるような、テンポのよさとストーリー展開の面白さがすごいと思う。確たる自分というものをもたない主人公は、ひっそりとごく普通に、目立たず、自分の範囲内で生きていきたいと願っている。そんな彼女はやっぱり流されて生きるしかない。周囲の、自分のことしか頭にない人々のほうが、さも自信ありげに気楽に生きられるのは当然のなりゆきだ。成功しても、失敗しても、自分の向かう方向は自分で決められるのだから。一方彼女が本当に望むのは、自分ではない誰かの一部になって、意思も身体も丸ごと吸収されてしまうことだ。根本的に自分という存在を愛せないのだと思う。自分を愛せないことはたぶんものすごく居心地が悪いことだから、誰かの一部になることで安心を得ようとするんじゃないか。主人公にダメだしする気はないけれど、私は私を見ているようで、「もうちょっと、しっかりしなよ」と言いたくなった。読む人によってずいぶん印象の変わる作品かもしれない。… (más)